全裸中年男性とエンドレスエイト

「何がセプテンバーじゃ!わしの8月はまだ終わっとらん!」

 

11月の朝、アパートの前の公園から叫び声が聞こえた。こんな時間に公園で騒いでいる時点でまともな人間ではないのは分かりきっていたから、カーテンの隙間から覗くように見下ろすと、全裸中年男性が公園の中を歩き回りながら何やら叫んでいた。

一通り叫び終わった全裸中年男性は、持参したラジカセにカセットテープを入れてラジオ体操を始めた。朝の公園に響くラジオ体操の音声は夏休みを思い起こさせた。

実に美しく、洗練された動きだった。全裸中年男性の腕が、脚が、本来あるべき場所にぴったり収まるように動いていた。第2まで完璧に躍りきった時には心の中で思わず拍手をしていた。

やや息を弾ませた全裸中年男性は、徐にビニールプールを取り出し、顔を赤くしながら息を吹き込み始めた。

膨らませたプールに水を張り足を浸ける全裸中年男性。どこから持ってきたのか、スイカまで用意してある。さすがに傷んでいるだろう。スイカを食べ終えた全裸中年男性は両手に花火を持ち、腕をぐるぐると振り回し始めた。火の粉が飛ぶのも気にせず花火を振り回し、火花に包まれるその姿は、原始的な宗教の儀式のようですらあった。

ふと、全裸中年男性は寒くないのかという疑問が浮かんだが、すぐにそれは愚問であることに気づかされた。

子供は風の子元気な子。全裸中年男性の8月は、彼が言う通りまだ終わっていないのだ。彼のカレンダーをめくってくれる大人は現れるのだろうか。しんみりした気分になりながら警察を呼んだ。寒い朝のことだった。