金と玉

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いらすとやより


タイトルだけで下ネタと思った人は反省してほしい。このタイトルはキンタマでも金玉でも金の玉でもなく、「金と玉」だ。

東京大学の五神真総長は平成28年度の学部入学式における総長式辞で、次のように述べられている。

ところで、皆さんは毎日、新聞を読みますか? 新聞よりもインターネットやテレビでニュースに触れることが多いのではないでしょうか。ヘッドラインだけでなく、記事の本文もきちんと読む習慣を身に着けるべきです。

(『平成28年度東京大学学部入学式 総長式辞』より) 

 五神総長は間もなくその任期を終えられるが、キャッチーな見出しだけでアクセス数を稼ぐような記事やフェイクニュースが蔓延するこの時代、今一度この言葉を思い返してもよいのではないだろうか。

 

さて、金と玉といえば、もちろん将棋の話である。昨今の将棋AIの進展は目覚ましく、計算能力の発達とアルゴリズムの改良により、プロ棋士との対局に勝利するのも珍しいことではなくなってきた。既にチェスでは人間と肩を並べる程度にはコンピュータも進化しているとされているが、これからは将棋AIもさらに発展していくのだろう。

また、このところ将棋人口は減少が続いているが、最近は羽生善治九段や藤井聡太二冠などのプロ棋士もメディアに多く露出し、話題になっている。コロナ禍で在宅の時間が増えたことも、結果としては人気を後押しできるかもしれない。将棋界の今後にも要注目だ。

 

先日の対局でも、藤井聡太二冠が「神の一手」とも呼ばれるほどの妙手で戦局を一気に引き寄せて勝利を掴んだ。

news.yahoo.co.jp


【41銀】竜王戦で出た神の一手を解説します【藤井聡太vs松尾歩】

なるほど確かに、この局面で飛車を取らずに(タダで)銀を献上するのは一見して悪手のようだが、その実見事に勝利への突破口となっている。まさに妙手と呼ぶに値する一手だろう。今後のさらなる活躍に注目だ。

 

 

 

 

 

そんな藤井聡太二冠に注目しているのは、最近腹の段位だけは昇段できそうな異常独身中年男性。

「藤井の活躍とコロナ禍での在宅時間の増加を踏まえれば次に来るのは将棋」

と、もうすぐ四段になれそうな腹をピシャリと叩いて向かった先は近所の公園。まずは足元からと、ある秘策とともに、平日の昼間から指している老人たちに早速対局を申し込んだ。

双方20枚の駒を並べていざ対局が始まろうとしたその時、彼が盤から金を取り除く。駒落ち自体はハンデとしては一般的だが、金を落とすのは聞いたことがない。一体どういう意図なのか。すると、突然彼はズボンのファスナーを下ろし、手を突っ込んで何かをまさぐったかと思うと、自らの金を並べたではないか。

これこそが、彼の秘策であった。最近では見かけなくなったが、かつての将棋では盤外戦も戦術のうちという風潮の時代があった。現代では卑怯と言われようと、盤外戦も最大限に活用しようというわけである。

彼の脳裏に中学校での日々が蘇る。所属していた部活は将棋部。級友と毎週月・水・金曜日の放課後に対局していた。あの頃は、くだらないことでも思い切り笑うことができた。

ある日、部員が自らの股間にセロハンテープで金と玉を2枚ずつ貼り付けたのを見て、顎が痛くなるまで笑い、直後に部室を見に来た顧問に見つかった。連帯責任で翌週は活動禁止になり、貼り付けていた本人は1ヶ月活動禁止になった。

「今一度、原点に戻ろう。」

彼は考える。

金と玉は実際の盤面でも隣り合っている。だから、金2枚と玉を金玉金と貼り付けるだけなら、あの時部室に来た顧問に盤面を再現しているだけということもできた。同じように考えれば、盤面に自身の金を並べても駒を並べているだけと言い張ることも可能だ。対局中に金玉を出してはいけないというルールもない。幸い、盤の大きさも駒のサイズに合っている。これを活かさない手はなかった。

果たして彼の盤外戦術は、ある程度有効であった。駒と盤の立てるパチパチという音に混じって金が動く度にペチャリという音が鳴るのは確かに相手の集中を削いだし、駒から毛が生えていて時々うねるために、金を玉のそばに置いておけば深層心理で相手は近くに駒を進めることを躊躇ってしまう。加えて、相手の目の前で中腰になるためにやや見下ろす形になり、威圧感も与えられる。必然、防戦気味になる相手に、序盤、中盤と果敢に攻める。駒たちが躍動し、金は脈動していた。

しかし、そもそもこの戦法がプロでも通用するなら、ルールでも禁止されていない以上は盤外戦術全盛期には対局中に金玉を出す棋士がいてもおかしくないはずだ。にもかかわらず、公式戦ではそのような棋士は存在しない。この戦法にはある弱点があったのだ。

終盤、彼の額に汗が滲む。長時間の中腰に足腰が悲鳴を上げ始めると快進撃もここまで。足腰の辛さに勝ち筋を見逃すミスが相次ぎ、それが対局を引き伸ばしてしまう悪循環。最後は我慢できずに一旦腰を上げてしまったところ、これが二手指しとの判定で反則負けに。通行人からの通報で駆けつけた警官に「金で玉を囲っていただけ」「金と玉でキンタマを考えない方がおかしい」と弁明するも、警官は「金銀3枚が囲いの基本だぞ」「相手が金を取ったら文字通り致命的なダメな戦法」とこれを一刀両断。策士策に溺れる結果となった。

 

以上