所感

所感やその他共有したい内容について

LUUPを体験した感想など

この記事について

特定小型原動機付自転車、いわゆる電動キックボードを体験したので、その感想を書き残しておく。また、電動キックボードは自転車と概ね同様の交通規則に従うことになっているから、併せて自転車との比較についても書き残しておく。

 

5月下旬から6月上旬にかけて、LUUPの電動キックボードおよびアシスト付き自転車で自宅と勤務先の間を移動するのに利用した。いずれも移動距離はほぼ13km程度であった。以下にその概略を示す。興味深いことに、所要時間はキックボードならほぼぴったり70分、自転車ならほぼぴったり50分程度で、1-2分程度の差しか無かった。この移動経路では信号がボトルネックになっていることを示唆していると思う。

1回目

日中、自宅から勤務先への移動にキックボードを利用。所要時間は約70分であった。

2回目

深夜、勤務先から自宅への移動にキックボードを利用。所要時間は約70分であった。

3回目

深夜、勤務先から自宅への移動に自転車を利用。所要時間は約50分であった。

4回目

深夜、勤務先から自宅への移動に自転車を利用。所要時間は約50分であった。

感想

LUUPという乗り物について

実際に利用して体感したこととしては、電動キックボードは短距離の移動にしか向いていないという印象が強い。その理由はいくつかある。

法令上の制約

電動キックボードは最高速度が20km/hに制限されており、LUUPももちろん例外ではない。一方で自転車と同様に車道を走ることが原則であるし、車道ではなく歩道を走る場合は一度停止して6km/hしか出ない歩道走行モードに切り替えることが必要である。この制約のために現状のLUUPという乗り物は様々な点で長距離の移動には向かないことになる。

速度制限

最大の制約はここにある。筆者の場合幹線道路を走ることになるが、車道で20km/hしか出ない乗り物は周囲の交通の流れに乗ることが極めて難しい。自転車でももう少しスピードは出るし、実際日中の移動では自転車に追い抜かれることもしばしばであった。

この点、同じLUUPでも電動アシスト自転車は24km/hまではアシストが加わるので、筆者の場合はキックボードよりも自転車を利用する方が所要時間は少なかった。この時間差は信号に捕まる回数が大きく異なることに起因するものと思われる。自転車では間に合っていた青信号がキックボードでは間に合わなくなるのである。こうした点はストレスであった。

運転姿勢から来る疲れと振動

電動キックボードを利用する際は当然立った状態で乗車することになるが、この姿勢は意外と疲れる。また、電動キックボードは原則として車道の左端を走るが、この部分は舗装があまり滑らかでないことも多いため、車輪が小さいことと相まって路面から来る振動がよりダイレクトに伝わる。加えて乗車姿勢がほぼ直立に近いため、体全体で振動を受け止めることができず、文字通り脳が揺さぶられるような感覚を経験することになった。

上記のような内容のうち振動は自転車に乗車姿勢を近づけてやや腰を引き、膝を曲げるようにすることで改善するが、これはより疲れやすくなるために根本的な解決にはならなかった。

不安定さ

車輪が小さいことの弊害のもう一つは、自転車に比べて安定させるのが難しくなることである。段差に弱くなるのはもちろん、走行中でもうっかりふらつきそうになることも何度かあった。現状では自転車もキックボードもヘルメット着用は努力義務だが、どちらか一方を義務化するならキックボードのヘルメット着用を義務化した方がいいと感じるほどであった。

所要時間の不透明さ

LUUPアプリ上では所要時間が目安として表示されるが、実際の所要時間はそれよりも長い。信号で捕まる回数をうまく考慮できていないのかもしれないが、実際には70分かかるところが55分という予測になる。実際の平均速度は10-11km/hだが14km/h程度で計算しているのだろうか。こうした差異は長距離になればなるほど拡大するのではないだろうか。また、時間に従って料金が決まる料金体系のため、こうした差異は利用者が事前の予測に間に合わせようと信号無視等の交通違反を犯すモチベーションを与えてしまっている面も否めないだろう。

良い点を探すなら

とはいえ、LUUPがユーザーの側から見てまったくもって良い点の無いものというわけではない。街中には多数のポートがあるから、短距離でのちょっとした移動、例えば地下鉄で一駅や二駅分程度の距離であれば、より便利になる可能性はあるかもしれない。また、ポートさえ設置すれば良いというのは鉄道やバスの空白地帯を埋めることもできる。こうした利便性は電動キックボード自体の性質から来るものではないが、多数のポートを設置してあることで結果としてメリットにはなっているだろう。

まとめると

現状のLUUP、特に電動キックボードについては、短距離での移動であれば選択肢の一つにはなりうるかもしれないが、それは数km程度までの移動に留まる。それより長い距離であれば自転車を漕いだ方がマシではないだろうか。

木製の引き出しのネジ穴をパテで補修してみた

筆者が使っているシンクには木製の引き出しが付属しているが、この引き出しのネジ穴が広がってしまい固定ができなくなってしまった。そこで、パテを利用して補修したところ、一応それっぽくはできたので、その記録等を書いておく。

補修箇所

引き出しのネジ部分の画像を図1に示す。シンクから引き出しの本体を外し、板に本体を載せた状態である。図1中央の穴に、画像内では上から下に向けてタッピングネジを通し、引き出し本体と板を固定している。図2に示されているように、これと同様の構造が反対側にもあり、左右の2カ所で板を支えている。今回は片側の穴はほとんど広がっていないが、反対側の穴が主に取り付け時の上下方向に広がってしまっていた。しばらく放置された間に板の自重によりこのようになったのかもしれない。

図1. 引き出し部分の画像。中央に今回補修したネジ穴があるが、引き出し本体に隠れて見えていない。

図2. 左右の穴の位置関係。

補修作業

補修は一度ネジ穴をパテで埋め、そこに再度タッピングネジを通すことにより行った。

ネジ穴の位置決め

後のステップで穴を空ける際の目安として、ほとんど広がっていない側のネジ穴の位置を基準として広がった側のネジ穴の正しい位置を確認しておいた。図1,2をよく見るとその痕跡があるのがわかる。

図1,2に写っている引き出し本体側の穴は使用するネジに対して比較的遊びがあるので、それほど厳密に位置を決める必要は不要だった。引き出しを閉じた際に下側が干渉しないように、少し低めの位置に空けておくことにしたのだが、結局穴空け時は現物合わせで行ったので、ここで決めた穴位置は結局ほとんど使わなかった。

パテによる穴埋め

まずネジ穴をパテで埋める。使用したパテは以下の商品である。

穴の中にパテを注入する際に気泡が入ると後でネジで固定する際に強度に問題が出そうなので、シリンジと注射針を使って穴の奥から注入していくことにした。シリンジと容器の口を密着させて容器を押しながらシリンジを引くことで直接シリンジに取り、穴の奥からゆっくりと注入したのだが、パテの粘度が想像以上だったので、結局気泡が回避できたかというと微妙だった。とはいえ注射針で奥の方から注入したので、ネジ穴の上から直接注入していくよりはマシだったと信じたい。パテは乾燥するとへこむので、穴が埋まっても山になるまで盛っていく。パテなんてそう使う物でもないので、ケチる必要はない。盛った状態が図3である。

図3. パテを盛った状態。特に画像右側は少しやりすぎた。

盛り終わったらパテを乾燥させる。商品説明によれば20℃・24時間後には研磨や切削も可能とのことなので、念のため二日程度置くことにした。

乾燥後の穴処理

パテが乾燥したのち、穴の周囲をカッターナイフややすりで削り、形状を整える。金属やすりを使うと簡単に削れたので、そこら辺に落ちているやすりを使った。

下穴空け

金属にネジ穴を切る場合、原則として下穴は必須である。今回使用するネジは1種(A形)呼び径4mmのようなので、以下のサイトを参考にすれば大体3mm程度の径ということになる。一方今回は木材用パテで、キリ穴の時点でかなり柔らかい感じがしたので、一旦かなり細めに1.5mm程度で空けておき、明らかにネジが入らないようなら少しずつ広げていくこととした。

www.tsurugacorp.co.jp

下穴の深さについては目安が無かったが、パテが十分柔らかいのでとりあえずネジの深さより少し短い5mm程度まで空けることにした。

位置を決めたら養生テープで仮留めして、様子を見ながら微調整していく。図1,2は仮留め時の撮影である。満足したらキリで下穴を空けてドリルで整えた。

ネジ締め

ネジを締めこんで完成。ネジは頭をなめないように、基本的に工具で押さえつけながら回す必要があるが、電動ドリルを使うと押さえつける方に集中できて良い。図4に引き出し取り付け後の状況を示す。今のところ問題なく使えているので、とりあえずこれで様子見していく予定である。

図4. 引き出しを元に戻した状態。

振り返り

以上が今回の作業の記録だが、振り返ってみると思うところもいくつかある。

  • そもそも補修時点で片方の穴はまだネジが食い込んでいたので、その段階でパテの注入から現物合わせでの穴あけまで行っていればもう少し手早く作業できただろう。
  • 一方でこの場合、食い込んでいる方のネジ穴の強度には不安が残る。
  • また、今回空けた下穴は当初予定位置より上下左右とも数ミリはずれていた。あえて一度分解してから補修したことで筆者の好みの位置に合わせることができたともいえる。
  • 木工用のパテはかなり強度が低いように思われる。今回は頻繁に開け閉めすることのない引き出しなのであまり問題ないだろうが、強度が求められる箇所には使うべきではないだろう。
  • とはいえ、そもそも強度が求められる箇所に木材は使わないだろうから、逆にパテが使える場所ならそれほど問題ないのかもしれない。
  • シリンジを使ってパテを注入するのはシリンジに吸引する際の気泡を解決できれば有効だろう。今回は面倒くさがって容器から直接取ったが、これもうまいやり方はあるのかもしれない。
  • 注入時に使用した針は18Gでもかなり細く感じたので、もっと太いものあるいはチューブでもよかったかもしれない。
  • 電動ドリルは木工用でもほとんど必須だろう。筆者が使ったものは回転軸が目で見て分かるほどぶれているが、それでも無いよりは断然マシだった。

 

以上

耳舐めASMR音声によるクロスモーダル現象の布団を利用した増強

 

序論

Virtual Reality (VR) 機器の普及に伴い、いわゆるクロスモーダル現象に注目が集まっている。これは人間の感覚が相互に作用しあうことで、ある感覚情報により他の感覚情報が影響を受けるというものである。

例えば腹話術師が人形の口を動かしている際に、実際の声は腹話術師から発声されているのに人形が話しているかのように聞こえる、いわゆる「腹話術効果」が代表的な例の一つである。

上記の例は腹話術人形の口の動きという視覚的な情報が音声という聴覚的な情報に影響を及ぼしている例であるが、他の感覚、例えば視覚と触覚や嗅覚と視覚によるクロスモーダル現象も当然存在する。

例えば筆者は、VR機器で映像を再生した際に映像内の人物が視聴者に近寄る、すなわち筆者の視点ではその人物が近づいてきた際にその人物の体温や息遣いを感じられるような感覚を覚えた経験がある。これは視覚が体性感覚に影響を及ぼした例といえるだろう。

筆者は最近、耳舐め音声を主たる内容とするASMR音声を布団に入って聴取した際に、布団を頭まで被ったところ、聴覚が体性感覚に影響を及ぼすクロスモーダル現象が増強された事象を経験した。そこで、この事象について、記録と短い考察とともに書いておく。

聴取した音声および聴取時の状況

聴取した音声

筆者が聴取した音声はRJ01062001である。mp3形式でトラック7およびトラック8を連続して1度ずつ聴取した。

聴取時の状況

筆者は2025年1月23日午前1時頃に入浴を済ませて就床し、照明を暗くしてしばらくネットサーフィンを行ったのち、午前2時頃に上記の音声作品を聴取した。聴取はステレオ再生に対応したカナル型イヤホンにより行った。

筆者の寝具は一般的なベッド、布団、および枕であり、いずれも長い間利用して慣れ親しんだものである。就床時の室温は暖房器具により18℃に設定しており、布団に入った状態で暑すぎず寒すぎない適度な室温であった。

聴取時の体勢については仰向けで布団から頭を出した状態で聴取を開始し、上記の音声作品のトラック7の中盤から、約30-50センチ程度の円筒形のビーズクッションを仰向けで抱いた体勢で、布団を頭まで被って聴取を継続した。

クロスモーダル現象の増強

上記の音声作品は耳を舐めているかのような音声(いわゆる耳舐め音声)をバイノーラル録音により収録したもので、これをステレオ再生に対応したヘッドホンで聴取することで、Wikipediaの記述を借りれば聴取者に「心地よい、脳がゾワゾワするといった反応・感覚」を与えることができる*1、いわゆる耳舐めASMR音声と呼べるものである。

筆者は以上の環境で上記の音声作品を聴取した際、当初布団から頭を出していた状態で聴取した後に布団を頭まで引き上げたところ、耳舐めの感覚、すなわち耳を舐めていることになっている人間(以下、「耳舐め者」と表記する)の舌が耳に触れているかのような感覚が増強されるのを体感した。

また、同時に耳舐め者が実際に筆者の耳元にいるかのような感覚、特に耳舐め者の吐息が耳の周囲に触れる感覚や耳舐め者がすぐ横にいるかのような感覚が増強されるのを体感した。

考察

ここでは、布団を引き上げたことでクロスモーダル現象がどのように増強されたかを4つの点から考察していく。

視覚情報の遮断

筆者が布団を引き上げたことによる影響としてまず考えられるのは、視覚情報の遮断である。筆者は上記音声作品の聴取時に仰向けであったため、当初は天井が見えている状態であったが、布団を頭まで引き上げることにより強制的に視覚情報が遮断された。

人間は視覚から最も多くの情報を得ていることから、これにより視覚以外の情報の感度を上げざるを得ず、これが聴覚や体性感覚の情報に対しより敏感に反応できるようになった理由として考えられる。

筆者の吐息による影響

上記の音声作品を聴取した際に耳舐め者の吐息が耳の周囲に触れる感覚が特に増強された理由として、筆者の吐息を耳舐め者の吐息と錯覚した可能性が考えられる。というのも、布団を引き上げたことで当然筆者の顔は布団で覆われるが、筆者の呼吸は変わらず行われているからである。

一方、耳舐め者は耳を舐めている以上必然的に筆者の耳元、すなわち筆者がその吐息を感知できるほど近くにいることになる。その結果、筆者の吐息が布団の中で拡散し、それが耳の周囲で知覚されたことで耳舐め者の吐息と認識された可能性が考えられる。

布団内部の温度と湿度による影響

加えて、耳舐め者がすぐ横にいるかのような感覚が増強された原因として、布団を引き上げたことにより布団内部の温度と湿度が感知された可能性が考えられる。

筆者の就床時、室温は暖房器具により18℃に設定されていた。顔を出していた状態では顔の部分で知覚される温度は概ね室温か、これよりせいぜい数度高い程度と考えられる。

また、筆者が上記音声作品を聴取したのは冬であったこと、さらに筆者の部屋が暖房されていたことから、湿度は低い状態であったと考えられる。

一方、布団の中は筆者の体温により温かく、また湿度も汗等により高い状態にあったと考えられる。こうした相対的に高温・多湿の空気は、布団を引き上げることで筆者の顔の部分まで拡散したと考えられる。これを耳舐め者の体温や汗等により上昇した湿度と錯覚した結果、耳舐め者がすぐ横にいるかのように感じた可能性が考えられる。

その他、筆者が聴取した際の環境要因

上に述べた影響の他に、筆者が聴取した際の環境も当然影響していた可能性がある。例えば、入浴を済ませたこと、照明を暗くした部屋でベッドに仰向けになっていたこと、ネットサーフィンをしたこと、ビーズクッションを抱いていたこと等で筆者はよりリラックスした状態になっていたと考えられ、こうした状況で上記の音声作品を聴取したことで、より聴覚情報に集中することができる状態にあったと考えられる。

結論

今回、筆者が耳舐めASMR音声を聞いていた際に布団を引き上げたところクロスモーダル現象が増強される事象を経験した。本記事ではこの背景として、以下の説明を考えた。

  • 筆者が音声を聴取した際にリラックスできる環境が整っていたこと、布団を引き上げて視覚情報を遮断したことで、聴覚情報により集中できる状況が生まれた。
  • こうした状況で、布団により筆者の吐息が筆者の耳の周囲まで拡散した結果、耳舐め者の吐息と錯覚した。
  • 加えて、布団を引き上げた際に既に布団内部は筆者の体温や汗等で高温・多湿になっていた。この高温・多湿の空気に触れることで、これを耳舐め者の体温や汗等により上昇した湿度と錯覚した。

これにより、耳舐めASMR音声という聴覚情報が、「耳舐め者が近くにいる」という体性感覚情報を増強することになったと考えることができる。

上記の内容を踏まえると、耳舐めASMR音声を聴取する際には以下のような環境を整えることで、聴覚と体性感覚のクロスモーダル現象を増強できる可能性が考えられる。

  1. 聴覚情報に集中できるよう、聴取前に入浴を済ませて就床する等、充分リラックスした状態で聴取を開始する。
  2. 聴取時は音声の内容に応じて目を閉じるまたはアイマスクを着用する、あるいはそもそもアイマスクを着用する内容の音声を聴取することで、視覚情報を遮断する。
  3. 聴取時には耳の周囲の温度や湿度を高くすることで、耳舐め者が近くにいるかのような感覚をより増強できるようにする。

また、今回は就床時に布団を頭まで引き上げることで上記の環境を整えたが、例えば3については、布団を被る以外の手法も考えられる。

例えば、ヘッドホン型のデバイスにヒーターと加湿機構を組み合わせることで、聴取者の耳の周囲の気温・湿度を上昇させることができれば、単に目を閉じるだけまたはアイマスクを着用するだけでも、すなわち布団を利用しなくても上記の環境を整えることができる可能性があるだろう。

これにより、聴取者が環境を整備する負担が軽減されるとともに、音声の内容が布団に入った状態と矛盾していても(例えば立った状態や椅子に座った状態を前提とした耳舐め等)同様のクロスモーダル現象増強が得られるようになる可能性がある。今後のヒアリングデバイスにおける技術開発にも期待したい。

 

 

以上

3DプリンタとAutodesk Fusionを使いキッチンシンク用のスポンジホルダーを作ってみた

筆者は洗い物用にシンクにスポンジと洗剤を置いているのだが、シンクに直置きはなんとなく不衛生な気がするし水垢も気になるので、ホルダーを使うことにしている。

とりあえず100円ショップで適当なものを買い使っていたのだが、吸盤の吸着力が弱まってきたし吸盤の形にうっすらと跡がついてしまったので、新しいものにすることにした。

とはいえ、新しいのを100円ショップで買いなおすだけではどうせ同じくらいの期間で吸盤が弱るだろう。そこで、せっかくなので自分の作りたいものを3Dプリントしてみることにした。以下にその際の記録を書いておく。

大まかな方向性を決める

とりあえず3Dプリントでスポンジホルダーを作るのはいいとして、そのためには印刷用に具体的な形状を決める必要がある。ただ「スポンジホルダーが欲しい」だけでは何も決まらない。そこで、まずどういうスポンジホルダーが実際に3Dプリントで作られているのかを以下のサイトで調べてみることにした。

www.thingiverse.com

とりあえず"kitchen sponge holder"等のワードで検索してみて、良さそうなものをいくつか見比べてみる。すると、大まかには3種類のタイプがメジャーであるようだった。

  1. 平置き
    外見は最もシンプル。皿のような形状で、そのままスポンジを置く。例えば

    www.thingiverse.com

    が分かりやすい。以下にその形状を示す。

    3dGringo氏の例。スポンジを置き、切った水を排水できるよう突起と傾斜がある。


  2. クリップ型
    名前の通りシンクの縁を挟み込むクリップ型をしている。シンプルな形状ながらシンクの中の定位置にスポンジを保持するという要求を満たしている。例えば

    www.thingiverse.comなど。上記は二槽式シンク用に作ったようだが、形状を少しいじれば一槽シンクにも容易に使えるだろう。以下にその形状を示す。

    stevehlau氏の例。中央のクリップ部でシンクの縁を挟むシンプルな形状。



  3. ぶら下げタイプ
    形状を工夫して蛇口にぶら下げる。蛇口の形状に応じて様々な形状がある。自分の欲しいものを立体で作るという3Dプリントのメリットを最大限に活かした形といえるかもしれない。例えば

    www.thingiverse.com

    など。蛇口に嵌まる部分とスポンジを保持する部分に分かれている。形状を少しいじれば一槽シンクにも容易に使えるだろう。一方で、実際に作ろうとすると蛇口の形状に合わせて設計する必要があるだろう。以下にその形状を示す。

    Julius3E8氏の例。C型の部分で蛇口に固定し、左側でスポンジを挟む形状。

     

    形状自体は様々なバリエーションがあるが、吸盤でシンクに設置する(従来使用していた)タイプを除けば大まかには上の3タイプに分類できるだろう。

具体的な仕様の設定

続いて、上記のタイプのそれぞれについて、メリット・デメリットを評価する必要がある。そのために、具体的な仕様を考える必要がある。今回は以下の通りである。

設置場所

使い終わったスポンジの水を切れるように、シンク内か、水切りのできるシンク真横に置く。シンク横の場合はホルダー下側に傾斜をつけて排水することになるだろう。上記の平置きタイプのようなイメージである。

収納するのは何か?

当然スポンジと洗剤を収納する。当初は他にスチールたわし等も収納しようか考えたが、それほど使うことはないのでこちらはシンク下に収納することにした。スポンジは1個か2個、サイズは標準的なものである。厚みのあるものか薄いものかは未定なので、どちらのタイプにも対応できるようにしたい。

それから洗剤である。洗剤は当面の間は既存のボトルに詰め替えて使用する予定なので、こちらは収納できさえすれば良い。

固定方法は?

従来は吸盤で固定していた。これの他に、

  • クリップでシンクのふちに固定する
  • 蛇口にぶら下げる
  • 平置きして特に固定しない(収納したものの自重を利用する)

というものが考えられる。さらに、今回はシンクがステンレス鋼製であることを活かして磁石で補助的に固定する方法も考えられる。

各タイプの評価

以上で候補となる3タイプと仕様が出揃ったので、それぞれのタイプについて評価していく。

平置きタイプ

こちらはシンク横に置くことになる。筆者の場合、シンク横のスペースが手狭なためこれはデメリットになる。収納するのはスポンジ1個と洗剤になるだろう。固定方法は自重か磁石との組み合わせになるだろう。

クリップタイプ

こちらはシンクの縁の部分に置くことになる。確実に水を切ることができ、シンク周囲があまり手狭にならないのがメリットになる。収納するスポンジは1個でも良いし、縦にすれば2個置くこともできる。また形状を工夫すれば厚みのあるスポンジも対応できるだろう。固定方法はシンクのふちを挟むようになる。この場合、シンクのふちの部分の形状をある程度正確に測る必要があるが、こちらも磁石との組み合わせも可能だろうし、その場合形状の測定はもう少しラフでも大丈夫だろう。

ぶら下げタイプ

こちらもシンクのふちの部分に置くことになるから、基本的にはクリップタイプと同様の仕様になるだろう。一方で、蛇口の部分にフィットさせるために3次元的に形状を測定する必要がある。筆者の環境ではこれが結構難しく、その部分が大きなデメリットになる。また、測定した形状に合わせて印刷用の3Dデータを作るのも手間がかかるだろう。

3Dデータの作成

以上のような内容を踏まえて、3Dデータを作成していく。まず、メリットデメリットを踏まえてクリップタイプを基本としていくことにした。

続いて、形状の細かい部分を詰めていく。スポンジと洗剤の大きさを測定して、それより少し大きな形状にして形状をスケッチする。ついでにスポンジの置き方を考えて仕切り板を使えるようにした。

こうした内容を3D CADを使って実際に作成していく。筆者の場合Autodesk社のソフトウェアが使える環境だったので、大まかにはAutocadかFusionを使って作成することになる。

作成した3Dデータ

色々試してみたのだが、筆者の場合AutocadよりもFusionの方が3Dデータの作成には使いやすいように感じた。作成したスケッチをもとにFusionで実際の3Dデータを作成し、磁石を埋め込める穴を空けて適切な拡張子で出力したら完成である。

印刷

ここら辺は事実上外注なのであまり書くことがない。3Dプリントは光硬化性樹脂を使う方式とフィラメントを融かして押し出しながら積層していく方式があるが、今回はコストと出力可能なサイズの観点から積層方式を選択した。また、フィラメントにも材質が色々あるが、今回は比較的安価で造形品質が安定しているポリ乳酸(PLA)を選択した。PLAは熱や機械的な衝撃に弱いといったデメリットがあるようだが、今回の用途なら問題ないだろう。

今回は筆者の周囲で3Dプリンタを使っている方が新しいPLAフィラメントを購入したので、その際のキャリブレーションも兼ねて印刷してくれた。この場をお借りしてお礼を申し上げたい。最近はデータを渡すと印刷してくれるサービスもあるので、そちらを利用してみても良いと思う。

出来上がったのがこちらになります。張り出すような形状の部分は印刷時に自動的にサポート材が入るので、それを除去して目立つバリを削ったら印刷は完了。

実際に印刷されたもの。端の部分がやや歪んでいるが、これは3Dプリンティングでは珍しくない。

なお、予定では挟み込むクリップ部分にネオジム磁石を埋め込むつもりだった。本当は穴に埋め込んでその上からさらに印刷できれば見た目はより良いのだが、色々調整が手間なのと磁力が弱まるので今回は磁石のスペースを空けて印刷して、最後に接着剤で固定する予定だった。磁力線がシンクを貫くように極性に注意して埋め込むといいらしい。ところがいざシンクに設置してみると、思ったよりぴったりシンクにフィットしていたので、磁石は不要そうだ。いい感じである。

シンクに設置した状態。スポンジ2個と洗剤を収納している。スポンジの間に仕切り板を挟んでも良いだろう。

 

 

以上

DLSite上にある成人向け音声作品群について

 

はじめに

DLSiteというWebサイトがある。もっぱら同人作品、とりわけ成人向け作品のマーケットとして有名なサイトである。

DLSite上で成人向けフロアの新着作品一覧を眺めていると、音声作品が少なくない割合を占めていることがわかる。この記事を書いている時点で、おおよそ3日間で100件前後の作品が新たに販売開始されている。さらに細かくそれらの音声作品を見てみると、

  1. やけに価格が低い(DLSiteの最低価格である110円の作品も珍しくない)
  2. さらに値引きされている(こちらもDLSiteの最大割引率である90%OFFも珍しくない)
  3. サムネイルにAI生成と思われる画像を使っている
  4. レビュー件数が販売数に対してやけに多い(人気の音声作品では1000件程度の販売数につきレビューが大まかには数件~10件程度なのに対して、数百件程度の販売数で数十件のレビューがついているものも珍しくない)

といった特徴の作品がある程度の割合を占めているように見える。

そこで、このような状況を説明できるような仮説を考えてみた。

レビューによるポイント付与の影響?

 DLSiteではユーザーが作品について評価・レビューを書くとポイントが付与されるシステムがある。具体的には、レビューが掲載されると50pt, レビューをX(旧Twitter)上でシェアすると20pt, さらに販売開始から1週間以内の作品のレビューで50pt、合計で最大120ptがレビューを書くことで付与される。付与されたポイントは1pt=1円のレートで作品購入に使用することができる。

このポイント付与を目当てとして、低価格帯の商品でレビューを書いてポイントを貯める→自分が欲しい作品の購入に使用するというユーザーが一定数いるのではないだろうか。上記のレビューによるポイントは作品の購入価格によらず一定である。そこで、仮にシステム上最安値の110円に最大割引率の90%を適用すると、11円で購入できる作品に対してレビューを書いて120円分のポイントを取得することも可能である。

すなわち、11円で購入した作品で120円の作品を購入できることになるから、実質的には(1-11/120)*100=91.7%引きで作品を購入できることになる。そもそも90%OFFという設定自体、上記のような音声作品を除くとあまり見かけない割引率だが、DLSite上で設定できる割引率よりもさらに大きな実質割引率ということになる。

加えて、DLSite上では(少なくとも筆者の場合)15%OFFのクーポンもほとんど恒常的に配布されている。これらクーポンを購入時に組み合わせれば、実質割引率はさらに大きくなる。一例として割引後の販売価格11円の作品の場合最終的な支払い金額は9円になり、割引率は92.5%に達する。

こうした点は、「激安作品でレビューを書いてポイントを貯める→貯まったポイントで欲しいけどちょっと高い作品を購入」という行動をする上でのモチベーションになりうると思う。

自サークルの作品を購入することでさらに割引?

上記のような内容で低価格帯の作品にレビューが集中しているということはある程度説明できると思う。一方で、そもそもこうした作品が販売されている理由の説明としてはポイント還元のみでは不十分である。一つの仮説として、販売しているサークル側も自分の作品を購入することで実質的な割引を受けているのではないかと考えることができる。

DLSiteで販売されている同人作品で110円のような低価格帯の作品は、基本的にはユーザーが購入時に支払った金額の半分が販売しているサークルに支払われることになる。

そこで、再び110円の作品を90%OFFで販売している事例を想定する。サークル側が15%OFFクーポンを利用して自分でこの作品を購入したとすると、支払い金額は9円、そのうち4円がサークル側に入れば差し引きで支出は5円になるから、5円で120円分のポイントを獲得することになる。この場合、実質割引率は95.8%に達する。

こうした点が、そもそも上記1,2のような低価格帯の作品が販売されている理由の一つとして考えられるのではないだろうか。

レビューを書くためにも購入されるという想定?

もちろん、そもそもレビューによるポイントを獲得するというモチベーションのあるユーザーが購入するという想定も、こうした低価格かつ高い割引率の作品を出品する根拠になりうるものである。上記の自サークルの作品を購入することによる割引は売り上げが入金されるのに必要な要件から必ずしも使用できる手段ではないが、そもそもレビューを書くために購入するユーザーがいるならその時点で出品する理由としては十分ですらある。

こうした点も上記1,2のような状況を後押ししているのではないだろうか。加えて、このように低価格にする必要性から、制作にかけるコストをできるだけ抑えるというのも自然な発想であり、その手段としてサムネイルにAIを使用した画像を用いることでその分の費用を圧縮しているのではないだろうか。音声作品という媒体の性質や、上記のレビューを書くことを目的とした購入という想定も、サムネイル画像の重要性を低くすることでAIを使用することのハードルを下げていると考えることもできる。

実際のところどうなの

実際のところ、上で書いた仮説がどの程度正しいのかはわからない。音声作品である以上声優を使う必要はあるだろうし、その分の費用を加味すると本当に上の戦略がペイしているのかも疑わしい。ここで例えば声自体にもAIを活用しているならもう少し費用を圧縮できるのかもしれないが、費用目安を提示しているサイト*1だと音声部分のみ・30分程度で安くても約15,000円程度、一本10円で売ったとして1500本は売ることになる。実際はもう少し割引率を下げて(50%OFFとか)収支がギリギリ釣り合えば御の字といったところではないだろうか。

 

結局のところよく分からないね

 

 

以上

AutoLISP(とMATLAB)を用いてAucoCAD上での図形の描画を自動化してみた

 

この記事について

筆者はAutoCADを使い図面を書くことがあるが、その際に一定の規則に従い多数の図形を描画する必要があった場面を経験した。この作業は規則こそ単純なものの、AutoCADGUIのみでは大変煩雑な作業になるため、ある程度の自動化を試みることとした。そこで、AutoLISPおよびMATLABを使ったところ、プリミティブな方法ながら比較的容易に自動化することができたので、その方法の概略や筆者がつまずいた箇所等を書いておく。

序論

AutoCADについて

AutoCADとは、Autodesk社が開発しているCADソフトウェアである。1982年から発売されている歴史あるCADソフトウェアで、数多あるCADソフトウェアの中では汎用CADとして位置づけられ、実際様々な分野で汎用的に活用することができる。

筆者はAutodesk社のソフトウェアを利用できる環境にあるため、MEMSデバイスやそれを組み込む機械部品の設計等、様々な用途で活用している。

AutoCADの特徴として、非常に優れたGUIが挙げられる。例えば筆者の場合、MEMSデバイスの設計では最終的にはGDSファイルとして設計図面が手元にある方が望ましいのだが、それでもAutoCADで作成した図面をDXFファイルとし、さらに別のソフトウェアによりGDS形式に変換する方法をとっている。結局この方法が筆者の環境では最も容易にGDS形式の図面を作成できるからである。

AutoLISPについて

一方でAutoCADの特徴として、各種ツールにより機能を拡張できる点が挙げられる。そのツールの一つがAutoLISPである。AutoLISPはLISPというプログラミング言語の派生として使われているもので、LISP自体の拡張性を活かしてAutoCAD向けに拡張されているものと考えることができる。例えば、(x, y) = (-10, 3), (5, 13)の2点で張られている長方形を描画するには以下のように書けばよい。

  (command-s "._RECTANG" "-10, 3" "5, 13")

LISPの大きな特徴である"( )"でくくられた表記法はAutoLISPでも使われている一方、AutoCADで使われるコマンド(ここでは"RECTANG")がそのまま使えるというのも特徴である。筆者は普段ほとんどプログラムを書かない人間なので当初はこの独特の表記法に非常に戸惑ったが、AutoCADで行っている操作をコマンドとして直観的にプログラムすることができるので、結果として(筆者のやりたいことのレベルでは)導入に際してそれほど困難を感じることはなかった。

MATLABについて

MATLABMathWorks社が開発しているプログラミング言語で、数値計算系のタスク、とりわけベクトルや行列の計算といった分野で強力な言語であるが、数値計算以外にも基本的な機能は一通り揃っている。筆者はMATLABも利用できる環境にあり、こちらは普段からデータの解析で使い慣れているため今回も活用することとなった。なお、今回は大変プリミティブだが文字列の操作により前述のAutoLISPプログラムを書く際のツールとして使った。

タスクの内容

今回行いたかったタスクは、AutoCAD上での図形の描画である。詳細はここには書かないが、例えばある図形を繰り返し一列に描画する。ただし、図形の形状のパラメータ(円なら半径や直径、長方形なら一辺の長さなど)を位置に応じて変化させながら描画するというものである。

例えば、幅10 cm、高さ10cmの領域を埋め尽くすように100個の長方形を一列に並べて描画することを考える。ただし、長方形の高さは同じだが幅は位置に応じておおまかにはx^2+1に比例するように描画することとする。

この場合、例えば中央の長方形の幅は0^2+1で1, そこから右か左に10番目の長方形の幅は同様に101となり、端の部分は2501となる。これらの合計100個の長方形の幅の和が10cmになるように定数倍したものを描くというものである。

この説明では正直よく分からないとは思うが、要するに「数式で表現できる特定の制約に従って図形を大量に描画するもの」と考えてもらえれば十分だろう。

AutoCADのみで描く場合の限界

AutoCADは優れたGUIを備えていることを既に書いたが、実際に繰り返し描画すること自体はGUIでも容易で、矩形上配列複写という機能を使うことである図形を「縦に何列、横に何列、間隔はこのくらい」という程度のことは大変容易に実行できる。

また、何らかの形状に沿って繰り返し並べることも可能で、ある曲線に沿って並べるといった機能も備え付けられている。

筆者も当初はこれらの機能を使用して先述のタスクを実行しようとしたのだが、筆者の場合は上で書いたところの長方形の幅を変えながら複写することになるため、AutoCADGUIで完結する方法は手間やミスを誘発する可能性を考慮して断念せざるを得なかった。

実際に使った方法の概要

上記のような内容を踏まえ、今回はAutoLISPを用いて描画することとした。用いた方法の概要は以下の通りである。

  1. 描画する長方形のそれぞれについて、MATLAB上で左下と右上の2点を計算する
  2. 上述のコマンドの形式にしたものを長方形の数だけ作成する
    例えば
    (command-s "._RECTANG" "-17, 0.5" "-16.9, 10.5")
    (command-s "._RECTANG" "-16.8, 0.5" "-16.7, 10.5")
    (以下同様)
    といった形である
  3. まとめて体裁を整えてテキストファイルとして出力、さらにLISPファイル(.lsp)形式で保存
  4. AutoCADLISPファイルを読み込んでその中のコードを実行

その他初歩的な部分については調べれば出てくるので割愛する。

躓いた箇所

AutoCAD上でいざLISPファイルを実行してみると、図形の描画自体は行われていたが描画された図形の個数が明らかに少ない、さらに幅がおかしいといったことがあった。

コマンドラインの履歴を見てみると、どうも長方形の描画時に点の指定がちゃんとできていないようであった。というのも、実際に実行されたコマンドを見ると末尾にnilという値があったからだ。これは慣れ親しんだプログラミング言語でいうところのnullとbool変数のfalseを併せたようなもののようだ。

このあたりの挙動の詳細は分からなかったが、AutoCAD側でシステム変数のOSMODEを0にすることで解決した。OSMODEはオブジェクトスナップを設定するためのもので、おそらく当初のOSMODEの値では描画のために指定する必要のある点が左下と右上以外にもあり、それが未指定だったので次の図形の位置として指定した点の位置を使ってしまったのではないだろうか。

まとめ

とりあえず要点だけまとめると以下の通りである。

  • AutoLISPを使い、「AutoCAD上で何らかの規則に従って図形を大量に描画する」というタスクを自動化することができた。
  • AutoLISPのプログラムは構文がやや特殊だが、図形の描画に限れば、一度テンプレートを覚えればそれを使い回して機能するものを作れるだろう。
  • AutoLISPを使ってAutoCAD上で図形を描画する場合、(現時点では筆者にとっておまじないの域を出ないが)OSMODEを0に設定しておけばトラブルは減る可能性がある。

また、今回は時間の都合上AutoLISP上でのさらなる自動化はしていない。2時間かかっていたタスクを3時間かけて自動化しても、その後同じタスクを実行することがなければ無意味だからだ。そのため、今回は「筆者の使い慣れたMATLABを利用してAutoLISPプログラムを作成する」という遠回りでプリミティブな方法をとったが、AutoLISP上でも当然変数の宣言や条件分岐、繰り返しといった構文は利用可能なので、一度AutoLISPをある程度習得してしまえば、活用法次第では更に高度な自動化も可能になるだろう。

 

以上

さよならを教えての感想とか

夢の境界

子供の頃のある時期、連日悪夢を見ることがあった。

空が黒く塗りつぶされた世界で何かに追いかけられる夢だった。何に追われていたのか、今ではよく分からない。ただ、今日も眠りにつくたびに何かに追いかけられると思うとどことなく就寝するのが嫌になった。

 

夢というものは、とにかく奇妙だ。夢の中ではどれだけ現実離れした出来事が起きても、その非現実性に気づくことはない。空を飛んだり、全く知らないはずの場所を訪れたり、親しい友人が全く別人に変わっても、夢の中ではそれが「普通のこと」として受け入れられてしまう。

目が覚めて初めて、「あれは夢だった」と理解する。さらにその時になって初めて、夢の中で体験した出来事が現実には起こりえないと認識される。この「夢を夢として認識する」という行為は、現実性についての新しいレファレンスを得た瞬間ともいえる。

だが、このレファレンスは根拠に乏しいとも言える。夢と現実を区別する際、夢から醒めた後に得た「現実感」をもとにしているだけだからだ。つまり、夢を非現実と判定する基準自体が、自分の見ている現実を絶対的な、いわば100%の現実性を基準としているにすぎない。これ自体は相対評価をする以上当然なのだが、ではなぜ100%と見なせるのか、さらにその根拠まで考えていくと、私が体験の蓄積をもとにそう考えているからという答えになってしまう。私の体験が現実的であるかを判定するのに、私自身の体験に基づいた現実性のレファレンスを参照している。この構造は自己参照的であり、外的な要因によって容易に揺らぎうる。

現実性の揺らぎ

一つの例として、私のレファレンスが破損して、神の視点から見たときに今までのレファレンスとの比較で現実性が70%まで落ちたとする。夢と現実の区別が少し怪しくなった状態といえるが、この状態でも体験の現実性が完全にランダムなら、私はある体験の入力に対し7割の確率で夢と現実を判別できる。

7割という値は一見悪くないように思われるかもしれないが、ここでの問題は判別自体が判別基準に影響を及ぼすことである。7割の確率で入力される夢はそのまま夢として切り捨てられるが、3割の確率で混入する、「現実と判定された夢」は、神の視点から見れば、当然だが判別の閾値となる現実性を下げる方向に作用する。

次回の判別ではより高い割合で夢が現実と誤認され、閾値が再び書き換えられる。こうした負のフィードバックサイクルが繰り返されれば、最終的には夢と現実の区別がつかない状態に漸近していく。

もちろん、我々は実際に夢と現実の区別がつかないなどという状態になることはふつうない。意識のある時に常に触れている現実により、分類器は絶えずキャラプレートされ、閾値は100%に十分近い値で補正され続ける。時々非常にリアルな夢を見ることもあるが、そのような場合でも閾値は一時的に下がることはあってもすぐにキャリブレートされる。

問題となるのは、このキャリブレートがうまくできない場合である。妄想が妄想ではなく現実として認識される状態になると、もはやキャリブレートによって閾値を100%近くまで回復させることは困難になる。自己参照的構造の脆弱性が露呈した形である。

人見はそういう状態にあるものとして描かれていたように思う。現実性の判別機能が壊れた彼は、もはや自分の認識している世界が現実かどうか判断できない。時に気まぐれのように正しい認識が与えられても、既にセンサーが壊れているので非現実的であるとして切り捨てられる。

明確に誰かが悪いということではなく、それぞれの歯車が少しずつ嚙み合わなかった結果、最後には悲惨な結末が待っている。子供の頃連日悪夢を見ていた時のような、不快感とも異なった、なんとも言いようのない不気味さが残る作品だった。