ポケットモンスターダイヤモンド・パールのリメイクに思うこと

ポケットモンスターダイヤモンド・パールのリメイクが発表された。ニンテンドーDSで最初のポケモンシリーズである。灰色で、今思えば少々ぼってりとした質感のゲーム機に、懐かしい思い出のある人も多いだろう。

また、ダイヤモンド・パールは今年で発売から15周年。当時10歳だった子供は25歳になる年だ。就職と同時に一人暮らしを始め、大変ながらも社会人生活を送り始めた若者が、会社から帰ってきてプレイすると、そこには(ハードが変わり、グラフィックが変わっても)あの日見た景色が広がっていると思うと、絶妙なタイミングに思えてくる。

本作はSwitchでの発売で、私も今までメジャーなタイトルが出るたびにSwitchを買おうか悩んでは、「でも遊ばないしなあ」という理由をつけて購入を見送ってきたが、今回ばかりは購入を検討しはじめたところだ。発売は2021年冬とのこと。それまで続報を待ちたいと思う。

 

 

 

そんなポケモンリメイクの報に接して感慨に浸っているのは、若者だけではなかった。

人気のない深夜の公園。外灯の明かりもほとんど届かない場所で、ぼんやりと光るスマートフォンの画面が、持ち主の男の顔を、辛うじて表情がわかる程度に照らしていた。

15年前、小学生だった子供のクリスマスプレゼントにと初めて買い与えたゲームソフト。仕事から帰ると暖かい家で待ってくれていた妻と子。厳しいながらもやりがいのあった仕事。ほんのささいなきっかけからドミノ倒しのように多くのものを失ってもなお、かつての記憶だけは失われずに残っていた。

男は赤黒く日に焼けて皺が深く刻まれた顔で、しばらく画面をじっと見つめていたが、

「15年、か。」

やがて捻り出すようにそうつぶやいて画面を消した。

 

翌月曜日、昼過ぎ。都内某所のオフィス街では、昼休みを迎えた労働者が行き交っている。その中に、じっと佇む男の姿があった。ホワイトカラーの労働者とは言い難い風貌の男。だが、周囲は気に留めることなく歩いていく。

男は禿げた頭をピシャリと一度叩いたかと思うと、突然、目を見開いて叫んだ。

ブリリアントダイヤモンドに対抗して、ブリブリブリリアントダイヤモンド!」

突如下着を脱いでその場にしゃがみ込み、茶色いアクアジェットを吹っ飛ばす男。呆気に取られる周囲の人々。周囲がひるんで行動できない隙に男が取り出したのは2枚のうちわ。印刷は色褪せて穴も空いているが、かつてコラボした航空会社のものだ。男のきりばらいが決まり、周囲の人々も堪らず距離を取る。こうかはばつぐんだ!これに調子づいたのか、さらに

「これがワシのポコモンじゃ!」

そう叫んで男が露出した陰部は黄色く塗られ、顔のようなものが描かれている。ねずみポケモンのアイツのつもりなのか、男は陰部を手で生き物のようにうねらせ、裏声で鳴き真似をしている。素人がやっているにしては中々のクオリティだ。誤算があるとすれば、寒さに縮み上がったせいか、顔がしわくちゃになって渋いおっさんみたいになってしまったことだろう。これではまるでどこかの名探偵だ。

 

だが、たとえ不屈の心を持っていてもバトルはいつだって甘くない。

周囲からは「サウスパークが1999年にチンポコモンネタをやってる*1からポコモンはとっくに既出」「頭の輝きはシャイニングパール」「あなをほる覚えるしどちらかというとダグトリオ」との指摘が飛び、間もなくして通報で駆けつけた警官が男を取り押さえる。男もロッククライムで抵抗を試みるも、警官がはがねタイプだったため効果はいまひとつ。あえなく御用となり、ひみつきちではなく留置場へと向かうこととなった。

 

後に残された人々はまた何事もなかったかのように人の流れを作っていく。おそらくほとんどの人は、一人の異常な男のことなど数日後には忘れていただろう。だが、ワクワク気分を取り戻した彼が去り際に見せていた笑顔を私は忘れない。

 

以上

*1:

ja.wikipedia.org

dic.pixiv.net

日本では未放送。インターネットには日本語字幕つき動画も上がっている。