ケムリクサの感想など

ケムリクサというアニメを見た。きっかけは以下のツイートに寄せられたリプライである。*1

 面白かったのだが、ただ見て面白かったという感想だけで終わるのはもったいない気もする。もちろん何も考えず「おもしれぇアニメ」という感想で終わるのもそれはそれで楽しみ方の一つだと思うし、見るたびにあれこれと言語化するのは正直言って面倒でもあり、結局はバランスが重要という当たり障りのない結論に落ち着く。が、それはそれとして、せっかく自分なりに考えたことを言語化してアウトプットしないのはもったいなく感じてしまうのも事実なので、今回は書いておくことにする。

感想とか

本作の展開の特徴として、世界観に対する明確な説明が与えられていないという点を挙げることができる。作中では線路やビル、遊園地など、かつて人類が生活していたことを示唆する遺構が何度も登場する。この点において、本作はポストアポカリプスに分類することができる。ただし、この分類はかなり抽象的な分類で、いわば「日常系アニメ」とか「アクション映画」といったレベルである

さて、このようなポストアポカリプスの世界を描写するにあたってはアポカリプス以前あるいはアポカリプス自体についての描写が為されることが基本である。従って、最も基本的なストーリー展開は主人公の日常→何らかの出来事→その後の世界ということになるだろう。*2もちろん、実際にはこれを少しアレンジして、例えばポストアポカリプスの世界の描写→夢の中で以前の平和な日常を回想する→夢の中でアポカリプスとなる出来事が描かれて目が覚めるといった展開などもベタな例といえるだろう。いずれにせよ、世界観の説明をふつう受け手は求めるし、書き手もそれに応える。

その点、本作ではりん、りつ、りならの生きる荒廃した世界の描写も荒廃した理由も、明確な説明が当初から与えられることはない。彼女らは赤い霧に包まれた世界で「虫」と呼ばれるものと戦っているが、ならば赤い霧とは何か、虫とはなにかといった点についてはほとんど説明がない。もっと言えば、タイトルにもなっている「ケムリクサ」とは一体何かということも明確には説明されない。けもフレでも世界観に考察の余地が残る展開だったが、本作ではこのように明確な説明が為されないことに加えて、全体的に夜のように暗い色遣いで描かれていること、正体の知れない虫との戦いが描かれていることなどから、最初の数話ではある種の不気味さを感じ続けることになる。

一方で、説明がないことによるストレスはあまりない。その一つの理由として、わかばの存在を挙げることができるだろう。記憶のない状態でストーリーに組み入れられ、苦労しながらもなんとかやっていくという構図を描くことで、視聴者が置いていかれることなくストーリーを追いかけることができるようになる。これもけもフレによく似た構造ということができるだろう。

また、本作の特徴として「3Dモデル感」とでもいうべきものがあるといえる。なんでもいいのでアニメを見ればわかることだが、キャラクターは画面に描かれていても動いているとは限らない。*3これに対し、我々の体は「セリフ」がない間も動いているのがふつうだ。これは心臓の脈拍や呼吸による体動というだけではなく、例えば人と会話する時も完全に体の動きが止まることはなく、たとえば話に興味が出れば多少前のめりになったり、時々うなずいたりといった動きがある。

おそらく本作は3Dモデルを動かして制作されていると思われるが、いわば現実と創作のあいのこ的な3Dモデルでの表現が独特の雰囲気を醸し出している。本作はアクションシーンも多く描かれているが、こういったシーンは3Dモデルが苦手とするシーンかもしれない。もちろん、こういった表現の特徴も本作の味の一つということができる。

ここまで書くと、本作がひたすら奇を衒うことに力を注いでいるかのように思われるかもしれないが、そんなことはなく、もちろん抑えるべきツボは抑えられている。登場人物もそれぞれキャラクターが立っている。外観や話し方だけでなく、遺された姉妹を守るために強くあらざるを得なかったりん、そのりんを側で見ていて時に後ろめたさを感じながらも自らにできることをこなし、りんをサポートすることに徹するりつ、時に2人を困らせつつも底抜けの明るさで元気付けるりな。3人が相互に支え合うことで最低限安定した関係が維持され、わかばがそこに加わることで物語が前に進み始める。終盤に一気に世界観が説明されて伏線が回収されたのは快感だったし、一度は別れたりょう、りく、りょくとクライマックスで一度限りの共闘をする展開も良かった。一方で、赤い霧が世界に満ちた理由はなんとも悲痛なものだった。善意が結果として悲劇につながるのはやはり辛い。*4

結局、派手な描写や緻密な書き込み、豪華な声優といった要素は無いかもしれないが、要所要所で抑えるべきものはちゃんと抑えた上でたつき監督の色を感じさせる作品だったということができると思う。浅い感想だけど今回はこのへんで終わりにします。

末筆ながら、勧めてくれたフォロワーには改めてこの場で感謝したい。

 

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りつ。3話より。



 

以上

*1:言うほど「12月も終わり」ではない。

*2:かなり昔の作品だが、見たことのある作品だと「Threads(スレッズ)」や「The Day After(ザ・デイ・アフター)」なんかは核戦争のシミュレーション的要素もあるのでこの展開に近かった気がする。

*3:余談だがこれは演劇なんかでも同じで、セリフを発している間よりも舞台でセリフの無い時にどう「止まるか」ということの方が難しいという話も聞いたことがある。

*4:最近だと魔女旅の3話Bパートと9話なんかが該当する例だと思う。